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2017/07/08

片方の靴下

 出張先で目覚めた時、一瞬、ここはどこだ?とわからないことがある。大抵は、二日酔いの類の時なのだが、懇親会ならともかく、ひとり晩酌でも飲み過ぎるのであるから性質が悪い。もちろん、知らない街で知らない店に入ってである。

 

 徐々に目覚める意識の中で、ああここは東京でホテルに泊まったんだとベッドに腰かけポヤンとしていると、脱いだ着衣が足元に散乱しているのに気が付いた。そういえば、あの居酒屋の親父だ、あいつのせいで飲み過ぎたんだ。懲りないアルコール中毒患者は、すぐ人のせいにし反省はしない。まさか、頼みもしない酒が出てきたわけでもあるまいし、注文したのは、もちろん私である。

 

 散乱していた着衣を拾い上げ、ベットの上に広げた。あれ?靴下が片方しかない。どこへ行ったんだ?そうだ、伏見からだ、わしは伏見に住んでいたと親父が言いだしてから、話は止まらなくなったんだ。机周りやカバンの中をゴソゴソやりながら、カオルちゃんを思い出した。岸和田のではない。居酒屋のカオルちゃんだ。可愛かったなあ~、優香似の小柄なロリタイプ・・・。あれ?オレ、何探してんだっけ?ああ、靴下だ。なんでないんだ?まあ、いいか、先に小便するか。

 

 便器に腰掛けながら、飼い主様に東京本社に呼び出されたことを思い出し、ちょっと憂鬱な気分になった。(えっ?なに?小便は座ってするんだよ、おれは。細かいこと気にするなよ。)とは言っても、別に叱られに行くわけではない。新しい仕事の話なので、むしろ喜ぶべきなのだろうが、なんだか面倒くさい。所詮、銭金の話だ。本来なら私にとっては、どうでもいい。しかし、会社も私も現在銭足らずなのは事実なので、いたしかたあるまい、尻尾を振るしか選択肢はないのである。あっ!ひょっとして、ゴミ箱に紛れ込んでるのかな?いや、だから、靴下である。

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 ゴミ箱をあさりながら、昨日からずっと探し物をしていることに気が付いた。そっちのほうは、USBメモリーである。大事なスティックがどういうわけか見つからない。飼い主様に見せるプレゼンのデータを入れるため必要だったのだが、会社の机周りにも、自宅の万年床あたりにも、ない。いつも使うかばんは、5回もひっくり返した。結局、タイムリミットで新品を買ったのだが、すっきりしない気分のまま、靴下である。

 

 昨夜の行動をシミレーションしてみる。鍵を開け、部屋に入る。ズボンを脱いで、ベッドの上に腰掛ける。シャツを脱ぐ。ここだ。靴下を脱いで・・・うん、投げるな、オレはここで。投げた靴下はどこへ行くか。なにせ10㎡の部屋である。正面向かって1m先は壁である。壁に当たれば下に落ちる。が、ないということは、あらぬ方向へ飛んで行ったのか。ベッドをずらし反対側を見る。ベットの下をのぞき込んでみる。まさかエアコンの上か?あるわけがない。テレビの裏、机の下、カーテンの間・・・。ないわけがない。

 

 机の上に財布がむき出しで置いてあった。そういえば、結構、勘定高かったなあ。と思いながら、ふと財布を開くと、異変にすぐ気づいた。カードホルダーのあるべきところのカードが1枚抜けている。おいおい、今度はカードかよ。まいったなあ。財布の中をまさぐる。ない。あれ?何のカードだ?あっ、ナナコだ。おねぇちゃんの名前じゃない、セブンイレブンである。残高は全く覚えていないが、まあいい、クレカと比べれば拾ったやつにくれてやってもたかが知れている。

 

 いや、だから、それより靴下である。この狭い部屋の中で脱いだということは、部屋の中にあるしかあり得ないではないか!だが、ない。ということは、部屋に入る前に脱いだということか?ええ!?背筋に冷たいものが走った。カオルちゃんにチップだと渡したのか?ないない、それはない。じゃあどこで脱ぐんだ?とその瞬間、扁桃核および海馬を始めとした私の前頭葉全体が、「その件については全ての思考を止めなさい」と指示を出した。都合の悪いことは忘れるべきなのである。事実がどうあろうと、人が生きて行くということは、そういうことなのである。

 

 と、ベッドの上に残された片方の靴下が、寂しげにこちらを見ていた。諦めなさい、そういうことだから・・・。心を鬼にして私は残された片方の靴下をゴミ箱に入れた。そう、「ありがとう」と心を込めて言いながら。

 

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